行政書士試験はYouTube無料講義だけで合格は可能か?「独学+α」の賢い組み合わせ方

今の時代、高い予備校代を払わなくてもYouTubeだけで十分じゃないか?
行政書士試験の勉強を始めようとする際、誰もが一度はこう考えるはずです。確かに、現在YouTube上には実力派講師による質の高い講義動画が溢れており、一昔前のような「情報の格差」は消えつつあります。
結論から言えば、YouTubeの無料講義だけで行政書士試験に合格することは「可能」です。
しかし、ここで勘違いしてはいけないのが、「動画を観れば受かる」わけではないという点です。YouTubeという強力なツールを使いこなし、合格を勝ち取るには、受験生自身の「属性」に応じた戦略と、動画では補えない「+α」の要素が不可欠になります。
この記事では、YouTube学習の甘い罠を暴きつつ、独学者が最短ルートで合格するための具体的なメソッドを徹底的に解説していきます。
1. YouTube学習の「光と影」:無料という甘い罠
YouTubeでの学習には、予備校に通うのと同等、あるいはそれ以上のメリットがある一方で、独学者を不合格に追い込む致命的な「影」が潜んでいます。
【光】プロの講義をみっちり受講できる圧倒的コストパフォーマンス
最大のメリットは、本来なら数十万円の受講料を払わなければ聞けなかったプロ講師のノウハウを、無料で、かつ自分の好きな時間に何度でも視聴できる点です。
特に法律初学者にとって、文字だけの参考書を読み進めるのは苦行でしかありません。動画による解説は、視覚と聴覚を同時に刺激するため、複雑な民法の事例や行政法の概念を「イメージ」として脳に定着させるのに極めて有効です。
【影】「分かったつもり」があなたを不合格にする
YouTube学習における最大の罠は、「受動的学習」の心地よさにあります。
動画を観ている時間は、自分が一生懸命勉強しているような錯覚に陥りやすいものです。しかし、画面越しに講師が語る論理の流れを追いかけているだけでは、知識は「点」のまま。試験会場で自分の頭を絞り、正解を導き出す力(アウトプット力)は一向に身につきません。
情報の断片化も大きな問題です。YouTubeの動画は「再生数」を稼ぎやすい特定のテーマ(重要論点)に偏りがちです。また、多くのYouTube上の講義動画がお試しであったり、有料版への導入のための一部だけ無料提供という形になっています。これにより、やはり提供される講義動画の知識は「点」として提供されるだけになることが多いです。
以上から、YouTubeだけに頼った学習は試験全体を網羅的に、かつ体系的に学ぶには不向きな側面があります。この「知識の穴」を舐めていると、本試験で痛い目に合うことになります。
2. 【属性別分析】あなたはYouTubeだけで戦えるか?
行政書士試験は、受験する人の「これまでの属性」によって、YouTube活用法を大きく変える必要があります。
| 受験生の属性 | YouTubeのみの合格可能性 | 推奨される戦略 |
|---|---|---|
| 法学部出身・公務員試験経験者 | 非常に高い | 基礎ができているため、弱点補強や最新判例の確認として「辞書的」に活用する。 |
| 司法試験・予備試験受験生 | 超高い | 行政書士特有の「行政不服審査法」などの手続き法だけを動画で補完すれば十分。 |
| 法律初学者・社会人 | 注意が必要(低い) | 動画視聴をメインにするのではなく、後述する「+α」の教材を軸に、動画を補助として使う。 |
法律の基礎をみっちり積んでいる人にとって、YouTubeは「最高のショートカットツール」になります。しかし、初学者の場合は、動画をただ眺めているだけでは合格ラインの180点には届きません。なぜなら、行政書士試験は「基本的な知識の記憶」以上に、「未知の問題への対応力」が試されるからです。
3. 失敗しないための「YouTube活用・4つの鉄則」
YouTubeを単なる娯楽から「最強の武器」に変えるために、以下の4つのルールを自分に課してください。これを守れないのであれば、最初から予備校に通うことをおすすめします。
鉄則①:動画を観る前に「参考書」を1章分だけ読む
予習なしで動画を観るのは、地図を持たずに見知らぬ土地を歩くようなものです。あらかじめ参考書に目を通し、「ここがよく分からない」「この用語はどういう意味か?」という疑問(フック)を作っておくことで、動画の内容が脳に吸い込まれるように定着します。
鉄則②:1.5〜2倍速で回し、浮いた時間を「過去問」に充てる
行政書士試験の合格率は、動画の視聴時間ではなく、「過去問を解いた数」に比例します。標準速度でゆっくり観ている時間は、実はもったいないのです。倍速で回し、余った時間を1問でも多くの過去問演習に回すのが、賢い独学者の時間の使い方です。
鉄則③:最新の法改正に対応しているか確認する
法律は生き物です。数年前の動画では、改正前の古い知識が語られていることがあります。特に行政書士法や民法などは改正が頻繁です。視聴前に「いつ公開された動画か」を確認し、テキストの記述と食い違いがないか常に目を光らせてください。古い知識を覚えることは、不合格への最短ルートです。
※YouTubeチャンネル「動画で民法がわかーる。」は最新の法改正に対応した動画を提供しています。
鉄則④:複数のチャンネルを渡り歩かない
初期段階では「この先生の説明は分かりやすいけど、別の先生の意見も聞いてみたい」という浮気心は禁物です。講師によって用語の使い回しや解釈の強調ポイントが異なるため、知識が混乱する原因になります。自分の属性に合う「この人に任せたい!」というメイン講師を見つけたら、まずはそのチャンネルの講義を完走してください。
4. 独学合格を確実にする「独学+α」の賢い組み合わせ
YouTubeだけで合格できる人もいますが、それは極めて自律心の強い一部の層です。多くの独学者が「+α」として取り入れるべき要素を整理しておきます。
① 市販の予想模試(実力を客観視する)
独学の最大の弱点は「自分の現在地が分からない」ことです。YouTubeでの勉強が進んできたら、必ず市販の予想模試を解いてください。自宅で時間を計り、本番と同じ緊張感で解くことで、「YouTubeで分かったつもりになっていた箇所」が浮き彫りになります。
なお、独断と偏見による自己採点ではなく、公式の配点に準じた厳しい採点を行うことが重要です。
② 最新の「試験用六法」
動画で解説を聞くだけでなく、自分の手で六法を引き、条文の文言を確認する作業を怠ってはいけません。行政書士試験の難問は、条文の「ひっかけ」で出題されることが多いからです。YouTubeの補助として、常に六法を横に置いておく。これだけで合格率は格段に上がります。
③ 低コストなオンライン教材(ペースメーカーとして)
もしYouTubeだけではモチベーションが続かない、あるいは記述式の添削が不安だという場合は、数万円程度で利用できるオンライン講座を「+α」として活用するのも賢い選択です。すべてを無料で済ませようとするあまり、不合格になって1年という時間を無駄にするコストの方が、はるかに高くつくからです。
5. 実践!アザラシ式「YouTube×独学」黄金サイクル
効率よく勉強を回すための、具体的な4つのステップを提案します。この順番を崩さないことが重要です。
まずは自力で全体像を把握します。文字だけで理解できなくても構いません。
ここで講師の解説を聞き、「あぁ、そういうことか!」というアハ体験を得ます。
動画を観終わった直後に、該当範囲の過去問を解きます。解けなかった場合は、なぜ間違えたのかを動画や参考書に戻って再確認します。
過去問に出題された条文を六法で確認し、周辺の条文も一緒に目を通します。
このサイクルをみっちり繰り返すことで、YouTubeの動画は「ただの動画」から「合格のための栄養源」へと変わります。
6. 一般知識(基礎知識)と記述式はYouTubeだけでは限界がある
行政書士試験には、動画を観るだけでは対策が極めて難しい「鬼門」が2つあります。
一般知識(基礎知識)の足切りリスク
全14問中6問以上正解しなければならない基礎知識。ここでは時事問題やクイズ的な問題が出題されます。YouTubeにも時事対策動画はありますが、出題範囲が広すぎるため、動画だけに頼るのは危険です。新聞、ニュース、あるいは市販の一般知識専用の対策本を併用し、リスクを分散させる必要があります。
記述式の「壁」
記述式は40字程度の文章で答える問題ですが、これは「知識」を「文章」に変換する特殊な訓練が必要です。動画で「解き方」を理解しても、実際に自分の手で書いてみなければ、本番で加点対象となるキーワードを漏らさず記述することはできません。記述式については、動画視聴を早めに切り上げ、白紙に自分の力で答えを書く練習を「みっちり」積み上げてください。
まとめ:賢い受験生はYouTubeを「消費」せず「利用」する
行政書士試験は、独学でも合格は可能です。そしてYouTubeはそのための強力な味方になってくれます。しかし、YouTubeはあくまで手段であり、目的ではありません。
「無料だから」という理由だけで依存し、思考停止したまま動画を流しっぱなしにしている受験生は、残念ながら不合格者の属性に分類される可能性が高いです。一方で、自分の弱点を知り、参考書や過去問、そして「+α」の教材を軸にしながら、必要な情報をYouTubeから戦略的に引き出す受験生は、高い確率で合格を手にします。
行政書士試験は舐めすぎていると痛い目に合いますが、正しいやり方で努力を継続すれば、必ず道は開けます。YouTubeという文明の利器を賢く利用し、令和の時代の独学合格を勝ち取ってください。


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